伊東市伊豆高原の桜トンネルを歩いた事がありますか? 今年の春、私は女3人で歩き、満開の桜を楽しみました。六百本の桜トンネルは、心うきうき、「ウワ〜!きれい」「嫌な事も忘れてしまうね」ただただはしゃいでいましたが、この見事な桜には「森のボランティア」の方々の地道な努力なくして成り立たない事を知りました。ふと高田敏子さんの詩「樹の心」が浮かびました。
花の季節を愛でられて/花を散らしたあとは/忘れられている さくら
忘れられて/静かに過ごす樹の心を/学ばなければならない
忘れられているときが/自分を見つめ 充実させるときである事を/樹は知っている
何十年を超える時間を生きて、なお今年も花を咲かせる老木をみると、「静かに過ごす」時間が「自分を見つめ充実させるとき」であることを私たちに教えてくれます。その「樹の心」に気づかず、花の季節だけを愛で、風に舞う花びらを眺め喜んでいた私、今日はその樹の心がわかり、充実した生き方をしている人に出会いました。
「森のボランティア」会長の古瀬芳男さんのお宅を訪ねました。古瀬さんは定年退職後、平成7年に東京から伊豆高原に移り住みました。そのお宅の広い窓からは悠々自適な生活を楽しんでいる様子で、とてもお元気でした。奥様とご自身が大病に冒されたなんて信じられません。
体力増進のため毎朝の散歩をしていますが、その道すがら、テングス病になった桜をよく目にしたそうです。これでは伊豆の大事なものが失われてしまう。夢に見た伊豆、魚も水も美味しい大好きな伊豆なのに……。とても残念で「伊豆の樹木は病んでいる」と題し伊豆新聞へ投稿しました。それをきっかけに、同じ思いの方が集まり、古瀬さんを含め5人で平成12年9月「森のボランティア」がスタートしました。
みんな伊豆をこよなく愛し、終の棲家にと、よその地から移ってきた人達でした。
主な活動は桜の保全です。伊東市の桜、約2,280本を調査し、内1,130本がテングス病でした。テングス病は菌の胞子で感染が広がり、感染すると枝や幹から多数の枝が箒のように広がる。健全な枝より早めに葉が開き、花が咲きにくくなる。放置すれば5〜10年で枯死するという厄介な伝染病。「森のボランティア」は、テングス病になった枝を落として焼却する「看病」を地道に続けました。この活動に約四十社の企業も、資金や枝落しに不可欠な高所作業車の提供など、応援してくれるようになりました。現在は百人を超える会員数のボランティア団体に成長。15歳から94歳まで、幅広い年齢層ですが、平均年齢65歳。しかし、まだまだ若い人には負けないと意気軒昂です。
アダプトシステムとは市が管理する市内の公共施設を、市民が里親となって、美化作業・緑化作業などを行ってもらうもの。平成14年8月、「森のボランティア」はその伊東市との協定第1号となりました。市は清掃用具、花苗などの提供や安全確保のための保険加入など、出来る限りの活動しやすい支援をするもの。このシステム導入により、「森のボランティア」は、桜だけでなく、最近問題視されている放置竹林の整備も始めました。
「森のボランティア」は桜の手入れだけで年に30回近くも行うそうです。しかし、「楽しく・怪我せず・頑張りすぎない」が合言葉で、これまでの3年半の活動で一人の負傷者もないそうです。会員に活動内容を知らせる「森ボラ便り」の発行もしています。最新の70号には、「竹林の整備と竹炭」のことが詳しく載っています。これから挑戦する竹炭の視察や勉強会開催の様子が生き生きと伝わってきます。
このパワーはどこからくるのか? 古瀬さんは、「達成感です! よみがえった自然を目の当たりにした時の達成感は何物にもかえられない喜びです。満開の桜が何よりのご褒美。これからも楽しく、いい汗を流して活動を続けていきたい」と結んでくれました。私は、美しい伊東市のまちづくりに貢献する「森のボランティア」の活動に元気をいっぱい貰いました。また来年も伊豆高原の桜トンネルを歩こうと思います。