川根本町の中川根地区は奥大井に続く旧川根三町の中間に位置し、茶畑、森林と、豊かな自然が溢れる素朴な山間の町である。
しかし、過疎化がすすみ、年々さびしくなっていく。だから中川根に生まれ育ち、巣立った人にふる里の今を伝えたい。ふる里で育まれている子どもたちに、ふる里の歴史と文化を伝えたい。
そんな思いで昭和61年4月の創刊以来、年四回休むことなく発行し続け、平成17年7月に第77号を発行したのは、「中川根ふるさと通信」。編集長は旧中川根町上長尾に住む小沢節子さん。中川根生まれ育ち、中川根に嫁いだ生粋の中川根っ子である。
A4版、8頁から時に18頁もの情報紙は、温もりのある文章とカットに綴られているが、全て小沢さんの手によるもの。パソコン全盛のこの時代、逆にこの地を巣立った人たちに郷愁の思いを起こさせ、初めて読む人には自然の恵みを十分に伝えてくれる。創刊当初は3人で編集したが、今では小沢さん一人で切り盛りしている。
毎回千部を発行し、750人の町内外の定期購読者の他、図書館や地域センター等に配る。口コミなどにより年々愛読者が増えているという。
地元名士、住民による大井川に関わる数々のエピソード、事件、出来事、川根路に伝わる民俗、歴史などの寄稿や、茶摘み体験物語「緑摘む乙女子ら」など、読者からの温まる投稿も数多く寄せられる。小沢さんも知らなかった郷土の歴史や文化を次代に伝えるという、貴重な役割を「ふる里通信」は持っている。継続していれば、情報は集まる。そしてまた発信されていく。
「トンネルの向こうはふる里だった」という、同誌のキャッチフレーズも魅力的だ。
小沢さんは旧中川根町尾呂久保地区の山で森づくり活動をしているボランティア団体「白羽山はばたきの森に集う会」の代表もつとめ、年に数回、育林活動をしている。これは大井川下流部の人々に森林を理解してもらう事と、未来を担う地元小中学生らに、今は殆んど行われていない森づくりを体験してもらうために「百年の森づくり」活動を進めている。また、大好きな星空を見ているうちに「全国星空観察」の仲間入りをして早や十余年、夏と冬の観測データを環境庁に送っている。美しい星々を観察できる「三ツ星天文台」の指導員もファミリーで参画している。
子育て、家事、家業(自営業)の他に、積極的に地域活動に参画するバイタリティは尊敬に値する。もちろんご家族もそんな小沢さんの姿を温かく見守ってくれている。
「ふる里通信を通して広い世界を知り、見ることが出来ました。夢はこの地域の人達が、自信を持って、豊かな心で生活できる地域となる事です。」と、小沢さんはにこやかに語ってくれた。
平成17年9月20日、本川根町と中川根町が合併して新しい「川根本町」が誕生した。「中川根ふる里通信」が川根本町誕生とともに情報発信の中枢を担い、さらに発展する事を祈念し、エールを送りたい。